volume 89 (『ソトコト』 2011年3月号掲載)
今回の対談のお相手は、NPOフローレンスの代表・駒崎弘樹さん。 育児分野での社会問題の解決に取り組むフローレンスは、
多くの成功事例を生み出し、今や業界をリードするNPOです!

 2005年4月に、日本初の共済型・非施設型の病児保育サービスを開始したNPOフローレンス。病児保育とは、病気の子どもを預かること。通常、保育園では熱を出した子どもは預かってもらえず、仕事をする親にとって大きな問題だ。そこでフローレンスでは、熱を出した子どもを、病児保育スタッフとしての研修を受けた子育て経験者が「レスキュー隊」として、在宅で病気の子どもを看るサービスなどを開始。このサービスは反響を呼び、現在では、東京23区および浦安市、川崎市、横浜市に広がり、働く家庭をサポート。また。2010年からは待機児童問題の解決のため、空き住戸を使った「おうち保育園」を展開するなど、育児と仕事を両立できる社会をつくるため様々なサービスを考案する。 そんなフローレンスの代表を務めるのが駒崎弘樹さん。一世代下のNPO業界を牽引している逸材に、ハセベケンもたっぷり刺激を受けてきました!

ハセベ
どうしてフローレンスの事業をNPOとして始めようと?
駒崎
NPOのイメージを変えたかったんです。欧米だと、NPOにも予算があり事業としてきちんと成り立っている。一方、日本では少し前までNPO=ボランティア、と捉えられていた。今後社会がどんどん小さな政府になり、皆で地域をよくしていくべきなのに、その中でNPOの存在があまりに脆弱だと思ったんです。そこで、まず自分たちが公共サービスを行う自立的なNPOのロールモデルになろうと思い、興味のあった病児保育という問題に取り組もうと卒業後にNPOを立ち上げました。
ハセベ
すごい行動力だね。でも、周りは心配したんじゃない?
駒崎
そうですね、最初は周りから全く理解されませんでした。もともと僕は、在学中にITベンチャーの経営者をしていたんです。それで、「IT経営者をやめてNPOの経営をやります」と言ったら、「どうしちゃったの」「立派だとは思うけど……」と(笑)。ただ、もちろん法人形態は考えましたよ。ですが、ITベンチャーとして株式会社を経営していた身からいうと、やはり株主の利益を最大化するのが株式会社であり、株主は無視できない。でもNPOは、儲からなくても事業を進めなくてはいけない時がある。つまり、株主の存在は相反するものになるんです。なのでやりたいことのためにもNPOを選びました。
ハセベ
ITベンチャーの頃は、社会貢献は考えなかったの?
駒崎
当時のITというのは、新しいものを生み出して社会をよくしようという風潮があり、IT自体がよいことだと考えられていたんです。ですが、ホリエモン事件から風向きが変わって。また、経営する中で、自分はITそのものが好きなわけではないと気づいたんです。それよりもっとダイレクトに社会を変えたい。でも今から官僚を目指すのも違う……。そんな時、アメリカではNPOがプロとして社会的問題を解決しているのを知り、これだと思ったんです。

寄付税制でNPOが変わる。

ハセベ
設立当時はNPOの社会的認知度が低かったから、大変だったでしょ? 今でこそフローレンスはNPO業界をリードして、結果を出していますが。最初は怪しまれたり。
駒崎
とても怪しまれましたし、食えなくてアルバイトもしていました(笑)。大学ではNPOを勉強していたので、NPOって今すごくブームなんだ! と思って社会に出たら、実際はアレッ……という感じで。そう考えると、最近はずいぶんNPOを取り巻く環境がよくなりましたね。
ハセベ
確かにここ10年でガラッと変わったね。NPOもたくさんできたし、成功事例も増えた。就職先や転職先にもNPOが候補として当たり前になったのも嬉しいね。
駒崎
とはいえ、NPOの認知度が上がったといっても、きちんとNPOに就職して生きていけるようなプラットフォームづくりはまだまだ必要です。そして、その一つのポイントになるのが、今年1月から導入された寄付税制。実は僕、去年の1月~6月に内閣府のパートタイムの官僚として務めており、ちょうどこの寄付税制にも関わっていたんですよ。今回の改定により、NPOは経営基盤を大きく強化できることになります。例えば、NPOは「3000円以上の寄付者が年100人以上」という条件を満たせば認定NPO法人として認められるようになりました。これで収益力も増し一歩進んだNPOのサービスが期待できるでしょう。また、個人が認定NPOに寄付をした場合、寄付した人の所得税額から一定の税額を差し引けるようにもなりました。寄付者の税優遇により、今後は多くの人たちが気軽に寄付するようになるのではと考えています。 よく「日本人には寄付文化がない」と言われたりもしますが、それは違う。歴史的に見ても、神社や仏塔などの公共物は地元民から寄付でつくるのが当然で、日本にはれっきとした寄付文化がありました。今回の寄付税制によって、もう一度寄付文化を思い出し、一人ひとりが問題を解決し、よりよい社会をつくろうと行動するきっかけになればと思います。
ハセベ
政治家に頼るだけでなく、自分はこういう世の中をつくりたいと当事者の意識を持つことが必要なんですね。今後はどういう風に活動を広げていくつもり?
駒崎
具体的にはまだ決めていませんが、10〜20年先も何らかの形で社会問題の解決に関わっていたいです。そして、こういう社会をつくりたい、ともっと多くの人が気軽にNPOに関わってもらえたら嬉しいですね。
●こまざき・ひろき
1979年生まれ。99年慶應義塾大学総合政策学部入学。在学中に学生ITベンチャー経営者として様々な技術を事業化。同大卒業後、ITベンチャーを共同経営者に譲渡し、N PO法人フローレンスを設立。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員、2010年10月よりNH K中央審議会委員に。12月より内閣府「新しい公共」専門調査会推進委員に任命される。著書に『働き方革命』(ちくま新書)、『「社会を変える」お金の使い方』(英治出版)ほか。http://www.flor ence.or.jp/
●ハセベ ケン
渋谷区議会議員、NPO法人green bird代表。
1972年3月東京都渋谷区神宮前に生まれる。専修大学商学部卒業。2002年に広告代理店(株)博報堂を退社。その後、ゴミ問題に関するNPO法人green birdを2003年1月に設立。原宿・表参道を中心にゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を開始する。2003年4月に渋谷区議に当選。現在、渋谷区議会議員・無所属。
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