volume 81 (『ソトコト』 2010年7月号掲載)
今回の対談のお相手は、ナチュラルスマイルジャパン代表の松本理寿輝さん。 保育園の開設やコンサルティングなどを行っています。本日は、子どもの教育を通して、よりよい街や社会をつくりたいという松本さんの理念についてうかがいました。

 もともとハセベケンと同じ博報堂に勤め、その後、建築企画のベンチャー企業『フィル・カンパニー』の取締役副社長として、駐車場の空中を利用した建築の企画を行っていた松本理寿輝さん。今回の対談も、原宿駅の近くにある2010FIFAワールドカップ期間限定カフェ『nakata.net.cafe2010』で開催されました。このカフェは、駐車場の上空を利用してカフェや緑化を施したエコな建築で、フィル・カンパニーが手がけたもの。そんな松本さんは、現在『ナチュラルスマイルジャパン』を立ち上げ、保育園の開設やコンサルティングなどを行っています。駐車場ビジネスから保育園という一見脈絡のない分野ですが、そこには実は隠された意図があり……!? ユニークな視点で行う街づくりや教育のお話をお聞きしました。

ハセベ
ぼくらは同じ博報堂出身だけど、松本くんはぼくが辞めたあとに入社したので、社内では顔を合わせてないんだよね。そもそも、どうして博報堂から駐車場ビジネス、さらには保育園をやろうと変わってきたの?
松本
もともと大学生のころから保育園をやりたかったんです。
ハセベ
それは何か理由が?
松本
単純に「子どもが好き」「教育を通して社会をよくしていきたい」という理由です。ただ、大学時代に保育園をやりたいと思ったのですが、大学では経営を学んでいたので、そこから保育士になるのは難しいと。では実際に保育園をつくろうかというと、いきなりつくれるものではない。だったら社会経験を積み、その間に自分の保育園の理念を磨こうと思ったんです。
ハセベ
なるほど。でも最初に就職したのは博報堂だよね?
松本
広告会社であれば、発想力、想像力、コミュニケーション能力などが伸ばせると思ったんです。教育・保育の本質はコミュニケーションですから。それで縁あって博報堂に入り、営業職につきました。

地域に開かれた子育て

ハセベ
そして、3年後に会社を辞めて建築のベンチャー企業『フィル・カンパニー』を立ち上げたわけだけど、それはどういう経緯で?
松本
仕事をしながら保育園などの経営者に話を聞くうちに、当時は保育園の一番の課題は経営だと思ったんです。すばらしい理念でつくった保育園はたくさんあるけど、それを持続可能にしていくことが大切。では経営を学ぶにはと考えたときに、自分で会社をつくるのが早いと思ったんです。そこで、博報堂にいながら友人とビジネス構想を練り、それが「フィル・パークシステム」でした。これは、都内の駐車場の空中スペースを利用して、カフェなどのテナントスペースを創出し、屋上を緑化する。そして投資費用は、駐車場の中に入るテナント料で回収する、という事業です。このようなビジネスモデルをつくり、最初はインテリアショップ『IDÉE』の一部門としてはじめ、その後、05年に自分たちでフィル・カンパニーを設立しました。
ハセベ
その結果、駐車場ビジネスは都内各地で成功したけど、今はどういう段階にきているの?
松本
フィル・カンパニーとも連携して、いよいよ保育園に取り組もうと思い、去年の春に関係者の合意を得て独立しました。現在は、実際に園で働いたり保育士やお母さん方に話を聞いたり、経営者や行政職員などにインタビューをしたり、海外を視察したり……何が保育の課題なのか現状を把握しています。そして、今後自分で手がけた保育園を開設する予定です。
ハセベ
今の保育の課題って?
松本
今の保育園は、やはり「安心安全」が重要。そうなると必然的に、保育園は地域に対して”閉じる”方向に進んでしまいます。ということは、閉じられた空間の中で、子どもは限定した人たちとしか接しない。これが問題で、子どもたちは、多種多様な人格と交わったほうが、豊かに育つはずなんです。
 では、地域に対して”開いた”保育園ってなんだ? と考えたときに、それを見事に実現しているレッジョ・エミリア式という方法と出会ったんです。レッジョ・エミリアとはイタリアの小都市の名前ですが、この街で戦後から続いている教育アプローチがあります。これは、街ぐるみで理想の教育や保育を考えて、子どもを育てる方法と僕は解釈しています。具体的には、街中に開かれた広場があり、そこに地域の人々が集まって、おしゃべりをしたりランチを食べたりしてコミュニケーションをとります。そして広場にはアトリエが併設され、そこに子どもたちがいます。子どもたちは、教育の専門家とアーティストという2タイプの先生の指導のもと、音楽や絵画などの芸術・表現活動をします。そして、地域の人々がそれを見守りながら、子どもたちとコミュニケーションをとっていく……という方法です。これは、90年代にニューズウィーク誌に先進的な教育アプローチとして取り上げられ、今では世界的に広がっています。ですが、日本にはまだ本格的に取り組んでいるところが少なく、この方式を参考に開園したいと考えています。
ハセベ
おもしろい! 今は具体的にどう動いているの?
松本
早ければ、来年には東京で保育園を開設しようと思っています。例えば、1階を駐車場、2階は保育園、屋上は園庭というような、駐車場を活用した保育園もよいかもしれません。もちろんレッジョ・エミリア式を取り入れるので、2階にはカフェスペースを併設して、人が集まるようにします。
ハセベ
すごい発想だなあ。なるほど、そこに駐車場はつながっていくのか。都内ではなかなか場所が確保できずに保育園の数が増やせないという問題があるなかで、駐車場を利用すればすごく素敵だね。
松本
保育園が「地域コーディネーター」としての役割を担い、子どもと街の未来をつくっていく。安心安全を確保しながら、地域に開かれた空間をつくる、そんな保育園を目指したいと思っています。
●まつもと・りずき
ナチュラルスマイルジャパン代表取締役。1980年生まれ。一橋大学商学部商学科卒業。2003年博報堂に入社、06年より建築企画のベンチャー企業であるフィル・カンパニー取締役副社長を経て、09年4月に独立。保育園で修行を積んだ後にナチュラルスマイルジャパンを設立。
●ハセベ ケン
渋谷区議会議員、NPO法人green bird代表。
1972年3月東京都渋谷区神宮前に生まれる。専修大学商学部卒業。2002年に広告代理店(株)博報堂を退社。その後、ゴミ問題に関するNPO法人green birdを2003年1月に設立。原宿・表参道を中心にゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を開始する。2003年4月に渋谷区議に当選。現在、渋谷区議会議員・無所属。
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