volume 68 (『ソトコト』 2009年6月号掲載)
今回のお相手は、「スペースポート」の社長であり、
「Think the Earthプロジェクト」のプロデューサーを
務める上田壮一さん。クリエイティブディレクターとして、
さまざまな環境プロジェクトを推進している。
これまでの活動の原点と、今後の取り組みについて伺いました。

 「コミュニケーションを通じて環境や社会について考えるきっかけづくり」をテーマに、ソーシャルビジネスを展開している上田壮一さん。これまで、宇宙からの視点でリアルタイムの地球を映し出す「アースウォッチ」や、環境問題への啓発をセンセーショナルに描き出した写真集『百年の愚行』などを出版し、社会に大きな影響を与えてきた。そんな上田さんとハセベケンが出会ったのは約7年前。意外にも共通点が多い二人が、会社を辞めて環境活動にいたるまでの経緯や地球に対する思いなどを語ってくれました。

ハセベ
勝手ながら僕にとって上田さんは、シンパシーを感じる人なんです。同じ広告業界にいて、辞めて環境系の活動を始めた、という経歴が一緒で。僕が退社したころ、上田さんはパイオニアとしてすでにとても有名でした。なぜ、現在のような活動を始めたのか教えていただけますか?
上田
会社を辞めた後、フリーで映像ディレクターをしていたとき、「アースウォッチ」を思いついたのが全てのはじまりでした。「アースウォッチ」は宇宙から見た地球を見ることができたら、もっと地球が身近になるのでは、と思って企画したんです。それを実際に製品化しようとしているうち、経済活動を行いながら環境や社会に貢献したいと考えるようになって。それで、NPOの「Think the Earthプロジェクト」と、きちんとビジネスをするために株式会社の「スペースポート」を立ち上げたんです。
ハセベ
退社した時、NPO活動をするなんて考えていましたか?
上田
まったく。僕が会社を辞めたのは、自分で企画したものは自分でつくりたかったから。広告代理店って、基本的には企画しかできない。それで、30歳の時に辞めました。誕生日の2、3日後に決めて。
ハセベ
同じだ! 僕は30歳の誕生日の夜にお酒の力も借りて(笑)。ひと通り仕事は覚えたけど、やっぱり「自分の企画したものは自分でつくりたい」というのが僕も同じで。もちろん多少の不安もあったけど、不思議と根拠のない自信がありましたね。
上田
僕が30歳になった1995年は、阪神・淡路大震災やオウム事件が起きた年。結局、オウム事件って「未来を見失った若者たちの暴挙」だったと思んですよ。未来というものがどんどん希薄になっている世の中がとても怖かった。だからこそ、未来をつくり出す仕事をしようと決意したんです。で、正確にはそれから1年後の96年に退社しました。会社を辞めると、僕も含めて顔がすっきりする人が多い。会社員だったころは、どこか生きてる感覚が希薄だった。でも、辞めた後は何をするかは自分が決めればいいので、自分の人生を生きてる感じがして、毎日が楽しかった。だから、今でも仕事を決めるときは、楽しいと思えるかどうかを基準にしています。

社会を良くするクリエイター

ハセベ
以前対談させていただいた平尾誠二さんが、やりたいことと仕事がリンクするのはとてもハッピーだという「新・公私混同論」を話してくれましたが、それと同じですね。
上田
きっちりと分けたほうが良いという人もいます。でも、僕は働くこととプライベートは分けられない。遊びや旅も仕事のアイデアに繋がるし、逆に仕事はプライベートにすごく影響を与える。一つの人生としてどちらも大切なんですよ。
ハセベ
「アースウォッチ」をつくった後、出版なども手がけたそうですが、その経緯は?
上田
時計は趣味的なもの。多くの人には届かない。そこで、よりメッセージ性の強いものをつくりたくて、『百年の愚行』という環境や文明に対する人類の愚行を描いた写真集をつくったんです。もともと小崎哲哉さん、佐藤直樹さんという二人のクリエイターが持っていた企画で、それを僕がプロデュースさせてもらいました。本づくりは初めてだったので大変でしたが、僕のスタンスに向いているなと。本は図書館に置かれたら100年後も読まれる可能性がある。100年先のことを考えてじっくり言葉を選ぶのはとても面白い。それ以来、毎年最低1冊は本をつくろう、と決めたんです。
ハセベ
最近つくった本は?
上田
『いきものがたり』『みずものがたり』『たべものがたり』という3部作で、生物、水、食べ物を通して地球環境を考えていくという内容のモノ。環境問題に興味がない小・中学、高校生でも関心を持てるようにつくったので、漫画や写真、イラスト、文章などの表現で描きました。入り口が多様なので、どこかのページで何かしら引っかかって、地球に関心をもってくれたら、と思っています。
ハセベ
この本はいろいろな表現方法があるので、子どもだけじゃなくて大人も興味を持てます。環境活動っていうと堅いイメージを持つ人も多いけれど、こういう多彩な表現で関心を高めることができると思うと面白いですね。
上田
物を売るための表現って、もう出尽くしていると思うけれども、社会を良くしていく表現ってまだまだ試していないものがたくさんある。写真やCMなどでも、やったことのない方法が試せるので、クリエイターにとっては面白い時代なはず。やっぱり本気の人と本気の表現が出会った時に、とても良いメッセージができる。そういう出会いがたくさん生まれて、多くの人が少しでも地球に関心を持ってくれるきっかけがつくれたら、と思いますね。
●うえだ・そういち
「スペースポート」取締役社長。NPO「Think the Earthプロジェクト」プロデューサー。1965年兵庫県生まれ。東京大学大学院修士課程修了。96年に電通を退社、フリーで映像ディレクターなどを務めた後、宇宙からの視点でリアルタイムの地球を映し出す「アースウォッチ」を企画。2000年に「スペースポート」を設立、01年には水野誠一氏、坂本龍一氏らとともに、Think the Earthプロジェクトを開始。以後、写真集『百年の愚行』、書籍『1秒の世界』などを手掛ける。http://www.thinktheearth.net/jp/
●ハセベ ケン
渋谷区議会議員、NPO法人green bird代表。
1972年3月東京都渋谷区神宮前に生まれる。専修大学商学部卒業。2002年に広告代理店(株)博報堂を退社。その後、ゴミ問題に関するNPO法人green birdを2003年1月に設立。原宿・表参道を中心にゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を開始する。2003年4月に渋谷区議に当選。現在、渋谷区議会議員・無所属。
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