volume 64 (『ソトコト』 2009年2月号掲載)
尺八を通して人や自然と対話を続けている
尺八奏者のき乃はちさん。
自然への思い、ゴミ拾いで感じたこと、
未来への希望を、
じっくりお話しいただきました。

 

ハセベ
尺八って僕らの世代ではあまり馴染みがないのですが、尺八の由来は何ですか?
き乃はち
尺八は楽器ではなく、太鼓、木魚のような、お坊さんが使う法具なんです。世の中にはプラスとマイナスの気があるとされているのですが、法具には音を奏でることによってマイナスの気をとるという意味があります。もとは臨済宗の一派の僧である虚無僧が、言葉を発してはならなかったので、その代わりに尺八の音でお経を唱えていたのがルーツと言われています。
ハセベ
き乃はちさんは、ドラムやベースなどといった洋楽器とも一緒に演奏していますよね。とっても面白い。
き乃はち
尺八は、吹くというより歌っている感覚です。科学的にも声の周波数に一番近い楽器だと言われていて、ボーカルと一緒なので、何の楽器と合わせてもはまっていくんです。ただ、ずっと勉強してきた古典で培った基本なくして新しいものはできないし、それを知らないと何をやっても偽物になると思います。
ハセベ
 ”道”(哲学)みたいな感じですね。
き乃はち
はい、そうですね。尺八の言葉で一音成仏という言葉があるのですが、これは「一つの音でどれだけ霊や生きている人の魂に響かせるか」という意味なんです。基本は一音なんです。テクニックを駆使して指が速く動けばいいという問題ではなく、音の中に自分の生きざまを出せればいいな、と思っています。

マイナスが必要

ハセベ
もっと「ロックで、尺八界に新しい風を!」という感じだと思ったんだけど、そうでもないんだ。
き乃はち
今は全然ないです。20代の頃はバリバリそう思っていたんですけど、35歳を超えてずいぶん変わりました。2007年、鹿児島県の知覧にある、誰も人がいないお寺の観音堂で、観音様の目の前で吹かせていただいたことがあるんです。その時、それまでは聞いてもらおうと思って演奏していたんですけれど、そんな世界じゃないと気づきました。観音様が鏡で、今の自分が問われていたんです。その経験をしてから、余計なものは捨てて、淡々と吹くことが実はいいのではないかと感じています。
ハセベ
やはり”道”なんだね。かっこいいな。ところで、今回グリーンバードのゴミ拾いにも参加していただきましたが、実際に掃除をしてどうでしたか?
き乃はち
ゴミを拾いながら、自分自身がきれいになっていく気がしました。自分の中にあるゴミを捨てている気分になったし、それがすごく気持ちよかったですね。
ハセベ
ちょっと大げさだけど、僕はゴミ拾いも”道”に近いものがあるかなと思っています。型はないけれど、黙々と拾っているうちに、見えたもの、掴んだものが何となくあるし、これを続けるともっと見えてくるはずだと思って。
き乃はち
自分は書道をやっているのですが、先生から「お前は余白を知らないんだ」と言われてドキッとしたことがあります。要するに「文字の黒い部分と、余白である白い部分のバランスを知るように」と言われたんです。ゴミを拾う行為は白い部分で、バランスを知ることができるのだと思います。
ハセベ
なるほど。最初は軽いノリで始めたけれど、ゴミ拾いってすごくハッピーで、深いものなんだよね。
き乃はち
この前舞台で必要な笹を切るために、千葉県の我孫子に行ったのですが、山に入ったら山の状態がひどくて驚きました。人の手が入っていなくて、間伐されていないから太陽の光が土まで届かないし、風が通らない。それで根が腐り、山が弱くなっていく。それは人間も同じで、太陽や風を感じる生き方をしないと、人間はくたびれていってしまう。今は「自然を感じる」ということが問われていると思います。それに、山の間伐と同じように、人間も必要ない情報はマイナスしないと、情報に影響され過ぎてしまって根っこが育たない気がします。例えば、僕にとってパソコンは必要ないのでほとんどやらない。そこで風通しをよくしておかないと、太陽が当たらないし、自分自身が根っこを持てず、強い林になれない。それぞれみんな、マイナスするという行為を通して、自分を強くし、自分を信じ、自分自身をしっかり感じて生きていかないと。
ハセベ
すごい筋が通っている。これからはそういう生き方が必要だよね。き乃はちさんの話からも演奏からも、すごく伝わる。そういうスタイルはどうやって形成されたと思いますか?
き乃はち
周りにいい大人がいっぱいいた、ということが一番大きいと思います。僕はやっぱり人に学びました。子どもの頃はかっこいいオヤジが街にいて、しょっちゅう近所のオヤジに怒られけど、お祭りでは一緒に神輿をかついだりして。人を形成するのは最終的に「人」。もっと人と話すことが大事だと思います。
ハセベ
今までお天道さまに恥じない生き方をしたいと思っていたけど、実際に太陽に当たったり、風を感じたりすることが大事なんだな。僕もコミュニケーションを大事にしながら、ゴミ拾いを通じて”道”を極めていきたいと思います。
●きのはち
幼い頃から尺八を遊び道具として育つ。一時期尺八から離れるも、大学時代に車のラジオから流れる師・三橋貴風の尺八の音色に衝撃を受け、弟子入りを決意し、本格的に演奏活動を開始。1994年にロックバンド「六三四」に入り洋楽とのコラボを経験。2001年よりソロ活動を始め、03年ファーストアルバム『宙』、04年にはセカンドアルバム『粋』を発売。現代音楽とのセッションにも積極的に挑戦しながら、日本、世界で活躍している。http://www.kinohachi.com/
●ハセベ ケン
渋谷区議会議員、NPO法人green bird代表。
1972年3月東京都渋谷区神宮前に生まれる。専修大学商学部卒業。2002年に広告代理店(株)博報堂を退社。その後、ゴミ問題に関するNPO法人green birdを2003年1月に設立。原宿・表参道を中心にゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を開始する。2003年4月に渋谷区議に当選。現在、渋谷区議会議員・無所属。
ハセベケン事務所ホームページ