volume 63 (『ソトコト』 2009年1月号掲載)
今回の対談のお相手は、原宿表参道欅会の理事長・松井誠一さん。
表参道の街を見つめ続けてきた松井さんと、
今までの表参道のこと、
これからの希望を語り合いました。

 2008年10月31日、11月1日に明治神宮の御社殿復興の50年を記念し、夜間特別参拝が行われた。御社殿・境内は最小限の明かりで芸術的にライトアップされ、原宿駅のすぐ近くとは信じられないほど幻想的な空間になった。このイベントの実行委員長を務めたのが松井誠一さんだ。松井さんは表参道の商店会「原宿表参道欅会」の理事長としても活動を続けている。そんな松井さんが見てきた表参道の過去、現在、そして未来への希望は?

松井
グリーンバードの仕掛けは僕らの年代には理解不能で、どうしてこれで人が集まって掃除ができるのか、本当に不思議です。「掃除がかっこいい」という流れをつくったのはハセベさんだよ。僕らもいろいろとやってきたけれど、街が発展して大会社が増えると、それだけ掃除が大変になってくる。負担が大きいから参加者が減って、残った人がますます大変になった。「どうしようか」と思っていた時にハセベさんが現れて、全然違うやり方で掃除を始めたのでびっくりしました。
ハセベ
お褒めいただき恐縮です。僕らが表参道で掃除を続けられているのも、先輩たちが表参道につくった魅力によるものが大きいと思います。松井さんはなぜ、この街の活動をするようになったんですか?
松井
学生時代から、父が経営するレストランを手伝っていたので、表参道の街にはずっといたのですが、1973年に旧シャンゼリゼ会(欅会の前身となる商店会)が発足し、卒業してから理事だった父の代わりに出ることになったのがきっかけ。気がついたら巻き込まれていたという感じです。
ハセベ
なぜシャンゼリゼ会が発足したのか教えていただけますか?
松井
街に昔からいた人たちに聞くと、そもそも表参道は明治天皇をお祀りしている神宮の参道なので、みんな街に朝早く出て、ゴミ一つないように掃除をしていたそうなんです。ところが1970年代に表参道が商業地として注目を浴び始めていろんな人が来るようになり、それを知っている人が少なくなり、街が汚れ始めたんですね。比較的早くから商業者としてこの街に来ていた僕らは住民の参道への意識も分かっていたし、一方で商業者の進出を止められないことも分かっていた。それで先輩たちが「これは早く商店会をつくって街の整備をしないと、いろんなものがバラバラに出てきてからでは大変だろう。何とかいいかたちで出てきてもらって、街をきれいに保っていきたい」と考えて商店会活動を始めたんです。最初から「キープ・クリーン、キープ・グリーン」という街の環境美化がテーマでした。

先輩たちを敬う

ハセベ
今も昔も、街への想いは変わらないのですね。
松井
今と違うのは明治神宮がすごく敷居が高くて恐れ多い存在だったこと。表参道は60年代は欅の木がそんなに大きくなかった。でも神宮前の交差点から明治神宮にかけては戦争で焼けなかった木がたくさん残っているので、木がとても大きい。青山から行くと、明治通りから明治神宮にかけて緑がうっそうと茂っている。神々しい、恐れ多い感じでした。
ハセベ
松井さんは今、商店会の理事長を務めていらっしゃいますが、街の造りや表参道の歴史を勉強して街の知識が増えるのに応じて、街に関わる頻度も増えてきたんですか?
松井
勉強したというのではなく、ここに長くいて、いろんなことをやってみると、ある日突然いろんな経験や情報がつながって、それまで分からなかったことにふっと気がつくんですね。例えば90年代にイルミネーションをやった時、この街のイルミネーションがきれいな理由は長さ、幅、欅の木の植え方などの通りの基本デザインがすごく優秀だからだと気づきました。それに納得した瞬間「最初にデザインした人たちが目的をもってデザインしたものを、いいかげんに使っていないか」と反省したんです。ちゃんとやらなきゃ! と思いました。
ハセベ
この商店会の方はみんな「先輩たちを敬う」と言いますよね。
松井
表参道の通りは、参拝しに来た人たちがだんだん厳かな気持ちになると同時に、気持ちが高揚して清められていく。そして参拝に来た人たちがお互いに美しく見えるということを、明確に意識しているデザインなんです。その基本デザインをちゃんと活かすような使い方をすれば、もっと人が集まってきますよ。
ハセベ
明治神宮は善くも悪くも近寄りがたかったのですが、僕も30歳になってからこの街と関わるようになり、知れば知るほど見方が変わってきて、親近感を感じるようになりました。
松井
そういう風に明治神宮的なものが、日常のライフスタイルに消化されて入っていくのがいいと思います。今回の御社殿の50年記念の夜間参拝は、50年前の行事からアイデアを得ています。50年前の10月31日の夜に仮社殿から新しい本社殿に明治天皇の御霊が移される時、先頭を松明が行き、あとは真っ暗の道を歩いたそうなんです。それで、今回の明治神宮のライトアップは明治神宮の暗さを表現するための明かりにしました。エネルギーがどうのではなく、実際に暗い参道を体験して、イマジネーションを広げて「暗いのも悪くないな」というのを肌で感じてもらえるといいな、と思っています。
ハセベ
今回は表参道の通りでも蝋燭を灯しましたが、年末に向けてどう変化していくんですか?
松井
12月からお正月にかけて、明治通りから明治神宮まで今回と同じ蝋燭と、蝋燭を中に入れたランタンを置き、その周りに参加者が自由に願いや想いを書いた蝋燭を飾ります。人間同士のつながりが感じられるようにしたいと思っています。
ハセベ
今後も続けていきたいですね。楽しみです!
 
●まつい・せいいち
1951年青森県生まれ。学生時代から表参道にある父親の店を手伝い、卒業後「原宿シャンゼリゼ会(欅会の前身の商店会)」理事に就任。以来、表参道の街に関わり続ける。現在「原宿表参道欅会」第4代理事長として街のイベントや活性化のプロデュースを行っている。2008年10月31日、11月1日に開催された明治神宮御社殿復興50年記念奉祝事業では実行委員長を務めた。
●ハセベ ケン
渋谷区議会議員、NPO法人green bird代表。
1972年3月東京都渋谷区神宮前に生まれる。専修大学商学部卒業。2002年に広告代理店(株)博報堂を退社。その後、ゴミ問題に関するNPO法人green birdを2003年1月に設立。原宿・表参道を中心にゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を開始する。2003年4月に渋谷区議に当選。現在、渋谷区議会議員・無所属。
ハセベケン事務所ホームページ